令和8年産(2026年産)の新米価格が、ぼちぼち出始めています。結論から言うと、令和7年産比で大幅な下落です。同じ時期、株式市場では半導体関連株が賑わいを見せています。半導体は昔から「産業のコメ」と呼ばれる存在ですが、片や本物の米は自由に値崩れし、片や”産業の米”は各国政府が本気で守りにきている。この対照を、前後編に分けて書いていきます。前編は価格の実態編です。
令和8年産米、価格急落の実態
まず数字から見ていきます。JAが農家に支払う仮払金である「概算金」は、令和8年産の早場米で軒並み大幅安となりました。宮崎のコシヒカリは前年の32,000円から18,000円程度へ、千葉の早場米も23,800円から18,000円へと、いずれも玄米60kgあたりで2〜4割の下落です。
米どころ新潟の状況も見ておきます。令和7年産の新潟一般コシヒカリの概算金は、玄米60kgあたり30,000円でした。前年産(17,000円)から76%もの引き上げで、過去最高額を記録しています。この記録的な高値からの反動が令和8年産にどう出るか注目されていましたが、JA全農にいがたが県内JAへ示した令和8年産一般コシヒカリの概算金(玄米60kgあたり)は18,500円と発表されました。令和7年産の30,000円から11,500円、率にして約38%の下落です。
卸売段階の相対取引価格も、令和7年10月の37,058円をピークに下がり続け、令和8年6月には31,305円まで下落しました。ピーク比で約16%安です。
背景ははっきりしています。令和8年6月末時点の民間在庫量は243万トンに達し、品薄だった前年同期の155万トンと比べて約90万トン、率にして約58%も積み上がっています。米が「余っている」状態になったわけです。秋の新米出回り期には、スーパー店頭価格が5kgあたり2,800〜3,200円前後まで下がるとの見方も出ています。
わずか1〜2年前まで「令和の米騒動」と呼ばれる品薄・価格高騰が大騒ぎになっていたのに、今度は一転して過剰在庫による急落です。新潟のような主要産地でさえ、前年の過去最高値から4割近い下落という反動をまともに受けている。これだけ短期間で振り子が反対側に振り切れるのは、正直、農家として目まぐるしいものがあります。備蓄米の買戻し等の報道もされていますが具体化していません。乱高下する価格を前に多額の設備投資に二の足を踏む農家が増え、設備更新時期での離農が増加することが懸念されます。
一方、半導体は「経済安全保障」として守られている
対照的なのが半導体です。半導体は昔から「産業のコメ」と呼ばれます。コメが人間の生命維持に欠かせない基礎的な食料であるように、半導体はスマートフォンから自動車、データセンターまで、あらゆる産業の基礎部材になっているからです。
半導体業界のプレーヤーは、大きく3つの役割に分かれます。設計だけを行い製造は外部委託する「ファブレス」企業(NVIDIAやAMDなど)、実際にチップを製造する「ファウンドリ」(台湾のTSMCなど)、そしてその製造に使う装置を作る企業(東京エレクトロンなど(8035))です。加えて、記憶を担う「メモリ」領域には、マイクロンやサムスン電子、SKハイニックス、一時日本の株式時価総額1位に躍り出たキオクシア(285A)といったメーカーがひしめいています。
実はこの「産業のコメ」、裾野が広いことでも知られています。半導体そのものを作る企業だけでなく、意外な業種がサプライチェーンの奥深くを支えています。
- 超純水:半導体の洗浄工程では、不純物をほぼ完全に除去した「超純水」が大量に必要です。栗田工業(6370)やオルガノ(6368)、野村マイクロ・サイエンス(6254)といった水処理メーカーが、この分野で世界トップシェアを握っています。
- 産業用ガス:製造には高純度の特殊ガスが欠かせません。日本酸素ホールディングス(旧・大陽日酸)(4091)などが特殊ガス供給を担っています。
- 洗浄液・薬液:回路を彫るための高純度フッ酸(フッ化水素酸)は、ステラケミファ(4109)が世界シェア約7割を握るなど、日本企業の存在感が際立つ分野です。
- 電線・光ファイバー:チップと基板をつなぐ極細の金属線や、データセンター同士を結ぶ光ファイバーは、住友電気工業(5802)やフジクラ(5803)、古河電気工業(5801)といった電線メーカーが供給しています。生成AIの普及でデータセンター向けの光ファイバー需要も急拡大しています。
- その他:そして意外な企業が、調味料メーカーの味の素(2802)です。半導体パッケージ基板の絶縁材料「ABF(味の素ビルドアップフィルム)」は、うま味調味料の研究から生まれた技術で、世界シェアはほぼ独占状態です。もう一つ意外なのがトイレでおなじみのTOTO(5332)で、シリコンウエハーを固定する「静電チャック」というセラミック部品で高いシェアを持ち、この事業だけで会社全体の利益の相当部分を稼ぎ出しています。
半導体関連企業の各社が大幅増益、株価最高値を記録しており、まさに半導体は産業の主役(コメ)と言えます。
2026年の世界半導体市場は、AI需要の急拡大を背景に前年比89.9%増の1兆5,112億ドルに達する見通しです。これは世界半導体貿易統計(WSTS)が2026年6月に発表した最新の春季予測で、2025年12月時点の秋季予測(前年比26.3%増、9,755億ドル)から大幅に上方修正された数字です。比較可能な1987年以降で最大の増加率だといいます。急拡大の最大の要因はメモリーICで、2026年は前年の3.5倍となる8,039億ドルに達する見込みです。これだけで前年の世界半導体市場全体の規模を上回ります。AIサーバー向けのGPUを含むロジックICも前年比37.3%増の4,114億ドルと、市場拡大を牽引しています。特にAI向けのGPUや高帯域メモリ(HBM)は品薄が深刻化しており、マイクロンやサムスン電子の株価はこの品薄・値上がりを追い風に過去最高値まで買われています。
そしてこの産業は、各国政府が経済安全保障の観点から本気で支援しています。日本だけでも、次世代半導体の量産を目指すラピダス1社に対して、2027年度までの累計支援額は2.9兆円。政府は2030年度までに半導体・AI分野全体で10兆円超の公的支援を投じる方針です。
主食であるコメが、記録的な高値からわずか1年で反動の急落に見舞われる一方、”産業のコメ”と呼ばれる半導体には国が兆円単位の税金を投じて守りにいく。この予算規模の桁違いさが何を意味するのか、後編では、この「保護のされ方」の違いを掘り下げていきます。

