中国EVメーカーは企業単位では消耗戦を強いられていますが、国家単位では合理的な戦略になっています。「誰も得しないその場しのぎ」とは言い切れない、というのが私の見方です。
作りすぎているのは事実
中国の自動車工場は年5,550万台を作れますが、国内販売は約2,300万台。稼働率は5割前後です。米に例えれば、食べる人の2倍以上を作っている状態です。当然、値崩れが起きます。
- 値下げ合戦で、2023〜25年に業界全体の売上が約4,710億元失われたとの試算
- 2026年1〜3月の業界利益は18%減、平均利益率は3.2%
- 最大手BYDも、2026年上半期の販売が前年同期比16%減と6年ぶりの減少
だから余った分を海外に出す。ここまでは批判派の言う通りです。
厳密には「ダンピング」ではない?
貿易の世界でいうダンピングは、「自国より安く輸出すること」です。ところが中国製EVは、国内の値下げが激しすぎて、海外のほうが高く売られているケースが多いのです。
欧米が問題にしているのは、むしろ補助金です。EUが中国製EVにかけているのも、補助金を相殺するための関税です。安い土地、低利融資、地方政府の出資などが積み重なった「市場原理だけでは成り立たない価格」だ、という批判です。
弱者にはその場しのぎ、強者には長期戦略
体力のない中小メーカーにとって、輸出は延命策にすぎません。一方、BYDなど上位勢は明確に先を見ています。
- 2026年の海外販売目標は150万台
- 部品の約7割を内製し、自前の自動車運搬船で輸送コストを抑える
- 関税を受けて、輸出から現地生産へ移行中
- 2031年までにトヨタを抜いて世界最大の自動車メーカーを目指す
2026年4〜6月期には、中国メーカーが欧州で初めて日本メーカーの販売台数を上回りました。欧州でのシェアは約1割です。
歴史は繰り返す
太陽光パネルでは、中国は過剰生産と値下げで欧米メーカーをほぼ壊滅させました。中国企業自身も巨額赤字に苦しみましたが、結果として世界市場の大半を握っています。
1970〜80年代の日本車も、米国で「安すぎる」と叩かれ、輸出自主規制に追い込まれました。それでも現地生産に切り替え、最終的に米国に根付きました。BYDの動きは、この日本の道筋をなぞっているようにも見えます。
誰が得して、誰が損するのか
| 立場 | 損得 |
|---|---|
| 中国の弱小メーカー | 損。淘汰される |
| BYDなど上位勢 | 短期は利益減、長期は勝ち残れば寡占の果実 |
| 中国政府 | 雇用維持と産業支配力。ただし財政負担は大きい |
| 輸入国の消費者 | 得。安いEVが買える |
| 欧米日の既存メーカー | 損。第2回の減損の一因 |
日本にとっては、国内市場より、タイなど東南アジアの日本車の牢城が侵食されつつある点が大きなリスクです。
次回は、この戦略の「裏側」、中国国内にたまる歪みを取り上げます。
参考:Automotive World(価格戦争)、Automotive World(BYD)、BOFIT Weekly Review 30/2026、Chozan
