連載「農家、EVを考える」第2回 10年前の「EV時代」予想はなぜ外れたか

時事・企業分析

日米欧の大手自動車メーカーが、EV戦略の見直しで直近1年に計上した損失は少なくとも約12兆円。ただし「EVが失敗した」のではなく、「欧米日メーカーが描いた成長シナリオが崩れた」というのが実態です。

世界全体ではEVはまだ伸びている

意外に知られていませんが、世界のEV販売は2026年も前年比16%程度伸びる見通しです。急減しているのは主に米国で、伸びているのは中国勢です。

減損の規模感

メーカー内容
ホンダ北米EV3車種の開発中止で2026年3月期に約1.58兆円。翌期も約5,000億円の損失見込み
GM・フォード・ステランティス3社で計約8.6兆円
ステランティス単体約270億ドル。時価総額を上回る規模
VW・ボルボ計約1.1兆円

減損とは、工場や電池工場などの資産が「将来これだけ稼ぐ」という見積もりを下回ったため、帳簿上の価値を切り下げる処理です。過去の投資の損切りをするもので実際に現金流出するものではありません。ただし、部品メーカーへの契約解除金など、実際の現金流出も含まれています。

売れなかった5つの理由

  1. 補助金の打ち切り:米国は最大7,500ドルの税額控除を2025年9月末で廃止。ドイツも2023年末に購入補助を終えました。需要のかなりの部分が「補助金込み」だったわけです
  2. 新しいもの好きの一巡:環境意識が高く自宅充電できる層に行き渡った後、一般層は価格・充電・冬場の性能で足が止まった
  3. 中古価格の暴落:電池劣化への不安や新車値下げで、EVはリセールが極端に弱い。リース料も高くなります
  4. 中国勢の価格競争力:電池から内製する中国勢に対し、既存メーカーは「売っても利益が出ない」
  5. 金利上昇と充電インフラの遅れ

そもそもなぜEV偏重だったのか

純粋な環境対策だけではなく、複数の思惑が重なった結果です。

  • エネルギー効率が高い:発電所から車輪までの効率はEVが7〜8割程度、燃料電池車(FCV)は2〜3割台(概算)
  • 電池コストの急低下:2010年頃から約9割下落
  • ディーゼルゲート:2015年のVW排ガス不正で、欧州勢はディーゼルからEVへ一気に舵を切った
  • 中国の産業政策:エンジン技術で日独に追いつけないため、EVで「飛び越える」戦略
  • ルール形成の思惑:「ハイブリッドで強い日本勢に対抗するため、欧州が土俵を変えた」という見方もある
  • 投資マネー:テスラの時価総額が既存メーカーを圧倒し、EV計画を出さないと評価されない空気があった

水素の燃料電池車(FCV)ではダメだったのか

技術的にダメというより、乗用車では経済性でEVに勝てませんでした。

  • 電気で水素を作り、また電気に戻すので効率が悪い
  • 現状の水素の大半は天然ガス由来で、製造時にCO2が出る
  • 水素ステーションは1か所数億円規模とされ、需要が少なく採算が合わない
  • 「車が少ないから店が増えない、店がないから車が売れない」の悪循環

一方、長距離トラックやバスなど重いものを長時間動かす用途では、水素に優位性があり得ます。トラクターやコンバインのEV化がなかなか進まないのも、同じ理屈です。

まとめ

減損の主因は、補助金頼みの需要予測が外れたことと、中国勢に価格で勝てない構図です。結果的に、ハイブリッド・EV・FCVの全方位で臨んだトヨタの判断が、現時点では評価される展開になっています。投資の格言にもある「卵を一つのカゴに盛るな」にも通じます。

次回は、その「中国勢」の海外攻勢について考えます。

参考:共同通信(OANDA転載)、東洋経済オンライン、Yicai Global、Oman Observer(Reuters)

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