保有銘柄の話をします。JT(日本たばこ産業、証券コード2914)です。取得価格は2,109円。現在の株価は6,000円台後半まで来ているので、含み益は3倍以上まで育ちました。今回は、なぜこの銘柄を長期で持ち続けているのか、たばこという商品の歴史も交えながら書いてみます。
たばこは、日本国内で長らく国家が”独占販売”してきた商品
たばこが日本に伝来したのは16〜17世紀頃、ポルトガルとの交易を通じてだとされています。江戸幕府は、主食であるコメの代わりにたばこを作る農家が増えたことや風紀の乱れを理由に、栽培や喫煙の禁令を何度も出しましたが、庶民の間での流行は止められませんでした。
流れが変わったのは明治期です。国家財源の確保のため、明治9年に煙草税則、明治31年に葉煙草専売法、明治37年(1904年、日露戦争の戦費調達のため)に煙草専売法が施行され、栽培から製造、販売まで、たばこに関するすべてを国が管理する完全専売制に移行しました。この専売公社(日本専売公社)が民営化されて誕生したのが、1985年のJTです。
面白いのは、民営化から40年経った今も、財務大臣がJT株の3分の1程度を保有し続けているという点です。かつて国家財政を支えた”専売”の遺伝子は、法律上の独占こそなくなったものの、政府が主要株主であり続けるという形で、今もどこか名残を留めています。
民営化後のJTは、海外企業の買収で一気に世界市場に打って出ました。1999年に米RJRナビスコの米国外たばこ事業を買収し、2007年には英ギャラハーを買収。これにより、JTは売上規模で世界第3位の国際たばこ企業に躍り出ています。今では海外売上比率が過半を占め、フィリピンやロシアなど新興国での値上げが業績を押し上げる、というのが最近の決算のお決まりのパターンになっています。
国内の葉タバコ農家は、コメとは違う理由で激減している
たばこの原料となる葉タバコの栽培は、江戸時代から各地に根付き、土地ごとに独自の品種が生まれてきました。現在も国内の葉タバコは契約農家によって栽培されており、JTには「国産葉タバコの全量買取契約」が国から義務付けられています。単価は市場の相場ではなくJTとの契約で決まるため、コメのような価格の乱高下とは無縁の、安定した仕組みです。
ところが、この安定した仕組みの中で、葉タバコ農家の数は凄まじい勢いで減っています。全国たばこ耕作組合中央会によると、2002年に5万8千トンあった生産量は、2022年には9千トンまで減少し、20年間で約85%の減少です。かつて全国5位の産地だった岡山県では、1966年に約1万6,900戸あった生産農家が、今ではわずか2戸にまで減っています。全国1位の作付面積を誇っていた宮崎市でさえ、JTによる「廃作募集」が2011年度と2021年度に行われ、生産者・面積の減少が続いています。現在、全国の葉タバコ耕作者はわずか4,340戸ほどで、国内生産だけでは需要の3分の1しか賄えず、残りは輸入に頼っている状態です。
この激減の理由は、コメのような価格競争や貿易自由化ではありません。喫煙率の低下による需要そのものの縮小に対し、JTが計画的に契約農家を減らしてきた結果です。同じ「国による契約買い取り」という枠組みでも、コメは市場開放で価格そのものが暴れ、タバコは価格こそ安定している代わりに、栽培する担い手そのものが計画的に絞り込まれていく。同じ農産物でも、縮小の仕方がまるで違うというのは、農家として見ていても興味深い対比です。
数量は減っても、キャッシュフローは高位安定
たばこ事業の面白いところは、喫煙率が下がり続けているにもかかわらず、稼ぐ力はむしろ強まっているという点です。2026年12月期第1四半期の決算では、売上収益が15.2%増、営業利益は24.7%増、営業利益率は34.4%という高水準を記録しています。
からくりは単純で、値上げが数量減少を上回るペースで進んでいるからです。ニコチン依存という需要の性質上、多少値段が上がっても喫煙者は簡単には離れません。この価格転嫁力の強さが、数量が減っても利益とキャッシュフローが高位で安定するという、他の消費財にはなかなか見られない財務体質を生み出しています。
株主還元は「配当」がメインに
JTはかつて、カタログギフトのような株主優待を出していましたが、2022年にこれを廃止し、2023年発送分をもって完全に配当へ一本化しました。配当性向は「75%を目安(±5%程度)」という明確な方針を掲げており、稼いだ利益の大部分を配当として株主に還元する姿勢を貫いています。

実際の配当額の推移を見ると、2021年度140円、2022年度188円、2023年度194円、2024年度194円、2025年度234円、そして2026年度は直近の上方修正で272円まで引き上げられています。ここ数年は値上げによる増益を素直に増配へつなげる形で、2期連続の増配が続いています。取得価格2,109円を基準にすれば、272円の配当だけで取得価格に対する利回りは12%を超える計算になります。含み益に加えて、投下した資金そのものに対する配当利回りもここまで積み上がってくると、長期保有の効果を実感できる数字です。
最近では株主優待に対する評価の見直し(政策保有株式が減少し安定株主が個人の長期保有にシフトしている過程で株主優待を復活させている企業もある。)もあっており、個人的には優待の食品もうれしかったのですが、大株主の財務省にとっては必要ないものだったのでしょうね。
長期保有・高配当株という考え方
JTのような銘柄は、値動きの派手さでは半導体株のような成長株にかないません。ただ、私がこの銘柄を長期で持ち続けているのは、まさにそこが理由です。派手な成長を追いかけるのではなく、高い利益率と手堅いキャッシュフローを背景に、配当という形で淡々と果実を受け取り続ける。稲作でいえば、毎年派手な豊作を狙うのではなく、安定した収量を積み重ねていく発想に近いものがあります。JTの配当方針は、この「農耕民族的」な資産形成のスタイルと相性が良いと感じています。
もちろんリスクがないわけではありません。世界的に喫煙人口が減り続けているという長期の構造的逆風は、いずれ値上げだけでは吸収しきれなくなる可能性があります。加熱式たばこ「プルーム」など次世代製品への移行や、新興国市場での成長余地が、この先も値上げ余力を支え続けられるかどうかは、注視しておく必要があります。とはいえ、2,109円で仕込んだ株が、含み益と配当の両方でここまで育ってくれたことを考えると、派手さのない銘柄をじっくり持ち続けるという選択は、少なくとも自分には合っていたのだと思います。

